地域医療ネットワーク

地域医療ネットワーク(長野医報)
はじめに
国のIT戦略「i-Japan戦略2015」では「電子政府・電子自治体」「医療・健康」「教育・人財」の3分野を軸に、2015年までに政府が実現すべきIT施策を提示しています。年金や医療、福祉、転居手続きなど公共サービスに関わる個人情報を、ネット上で一元管理ができる「国民電子私書箱」を創設することや、医療情報のID基盤「日本版EHR(Electronic Health Record)」の実現などが盛り込まれています。近年、病院、クリニックでは電子カルテの普及、インターネット接続によるオンライン請求など、電子化・ネットワーク化が進んできています。しかし、医療機関同士の情報連携が不十分であると、紹介・転院のたびに、同じ検査を何度も受けるなどの不都合が生じています。そこで、生涯電子カルテとも言われる日本版EHRなどによって個人の健康・医療情報が管理されれば、重複した診療・検査の削減、また地域の医療機関が連携して一人の患者をケアすることなどが可能となり、国民・医療機関の双方に大きなメリットをもたらすものと期待されています。本稿では、当クリニックでの電子化・ネットワーク化の現状を述べ、今後の医療ネットワークにつき考察したいと思います。

クリニックのネットワーク
当クリニックでは電子カルテ、画像ファイリング、インターネットの3つのネットワークを設置しています。保険証、紹介状・資料等は受付でスキャンして画像サーバーに転送、心電図、胸部レントゲン、心エコー図検査の画像や動画なども画像サーバーに転送、また、血算・生化学の自動分析器による検査結果は電子カルテに転送しています。電子カルテによる診療記録を行い、モニター画面上で検査結果や処方内容を説明し、診察終了時には当日のカルテを印刷して“マイカルテ”として患者さんに渡しています。平成21年9月からコピー機をネットワーク対応のコピー機に更新しました。コピー機本体を院内ネットワークに接続し、受診したファックス文書は紙には出さずに電子化してコンピュータに転送、保存し、必要なファックス文書のみ印刷するようにしています。平成22年4月からの地域医療貢献加算で24時間365日対応が求められていますが、夜間休日に救急患者さんから電話連絡があった場合には、自宅からインターネット経由でクリニックの電子カルテを開き、病院救急担当医に電話で病状説明、診療依頼し、診療情報提供書を作成、病院へファックス送信するようにしています。電子カルテがなく、紙カルテがクリニックにある状況では、ほとんど不可能なことであり、電子化・ネットワーク化ならではのメリットと思われます。

地域医療ネットワーク
医療機関が役割分担を図り、それぞれの医療機関が相互に情報交換・連携をとるシステムが地域医療ネットワークで、共用する電子カルテとしては、WEBアプリケーション型電子カルテが採用されることが一般的です。WEBアプリケーション型電子カルテでは、クリニック側に電子カルテがなくてもインターネット接続環境さえあれば、地域連携サーバーに接続、サーバー内の電子カルテに記載することができ、また医療機関で相互にカルテを参照することができます。

地域医療ネットワークの成功例としては、「わかしお医療ネットワーク」(千葉県立東金病院)が有名です。この地域では糖尿病専門医不足で患者さんへのインスリン導入が遅れていたため、糖尿病壊疽による下肢切断率が全国平均の5倍も高い状況で、糖尿病診療レベルを向上させることが求められていました。地域共有電子カルテを中心とした医療情報ネットワークシステムを構築し、地域全体が一つの病院であるとの考え方のもとで、地域完結型の医療をめざししています。糖尿病診療のオンライン実践ガイドラインを設け、定期的糖尿病治療研修会で診療所へのインスリン療法の啓発・普及を図り、保険薬局ともオンライン服薬指導システムで連携し服薬コンプライアンスを向上させています。その結果、インスリン導入が進み、地域全体での糖尿病診療レベルが向上しています。元々あった東金病院の平山愛山院長を中心とした人的ネットワークの上に、ITによるネットワークが新たなコミュニケーションツールとして加わり、さらに緊密な連携が取れるようになりネットワークの成功につながったとのことです。

地域医療ネットワークに対しては、IT 投資にみ合う診療報酬の見返りが殆どない、コンピュータ操作に対する違和感やレスポンスの遅さ、自分のカルテを他人の眼にさらすことに対する医師の抵抗感、個人情報の漏洩などのセキュリティーに関する不安など、解決すべき課題があり、運用中止に至っているネットワークも多くあります。成功するためには、推進役となるリーダーの存在と、それを支える人材、ネットワークを使用する医師の熱意などが必要と言われています。

ユビキタス医療
ネットワークを通じて、誰でも、いつでも、どこでも最適な医療サービスが受けられる「ユビキタス医療」が理想的とされています。各医療機関から電子カルテ情報を地域医療ネットワークのサーバーに転送しておくことで、電子カルテのバックアップになり、また、他院からは紹介患者のカルテが閲覧可能になり、緊急受診の際などに情報を得ることができ、診療連携に役立つと思われます。また、患者さんがPCや携帯から医療データサーバーにアクセスして、自分のカルテを閲覧することができれば診療情報開示になり、また、自分の血圧、血糖値などのデータを医療データサーバーに転送し、それを医療者側が見ることで、必要に応じて適切な治療アドバイスが可能となるものと思われます。医療が万人のものになるためには、電子化、ネットワーク化により情報が集約され、誰でもいつでもどこでも自由にアクセスすることが必要条件になると思われます。個人的には、iPhone/iPadで電子カルテにアクセスして仕事できるのが夢です。

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