パンデミックが人類の叡智を試す
2019年12月、中国湖北省武漢市から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、世界各国に拡大し、2020年3月11日、WHOからパンデミックが宣言されました。3月22日の段階で、全世界で285,483人の患者数と12,430人の死亡者が報告されています。中国では強大な国家権力のもと、武漢を都市閉鎖し、新型肺炎治療専門病院を建設し、感染をコントロールしつつあります。一方、イタリアでは、医療崩壊を起こし、急激に感染拡大し、感染者53,578人、死者4,825人に達し、死亡者は中国の3,261人を越えています。感染の中心は中国から欧州に移ってきています。
各国の感染治療体制の差があり、感染拡大する国と、感染がコントロールされている国があります。2003年にSARS感染を経験した台湾は、早期からクルーズ船の寄港禁止や中国人の入境禁止など厳格に対応することで国内の感染拡大を防いでおり、感染症予防対策の優等生とされています。また、2015年にMERS感染を経験した韓国では、ドライブスルー方式にて積極的なPCR検査を行い、患者を発見し、重症度別に、施設隔離、入院治療していくことで感染拡大を防いでいます。イタリアは韓国方式を導入し、疑わしい患者に積極的にPCR検査を実施しました。しかし、病院に患者が殺到して混乱し、感染防御不十分な体制でPCR検査を行ったため医療従事者の多くが感染し、院内感染を引き起こし、爆発的に感染が拡大し、医療崩壊に至っています。
わが国では、集団免疫戦略がとられています。必要なPCR検査のみ行い、医療機関に患者が集中することを避け、院内感染を減らすこと、クラスター(患者集団)の早期発見、早期対応を行い、できるだけ感染拡大スピードを抑え、集団免疫が達成され感染が収束していくことを目指しています。欧米では急速に感染が拡がりましたが、わが国では「引き続き持ちこたえている」とされています。日本では、清潔な環境が保たれ、握手、ハグなどの習慣がないことで接触感染の危険性が低く、また真面目な国民性で適切に行動規制したことなどが、感染拡大を抑えることに繋がったと考えられています。
14世紀、黒死病(ペスト)がヨーロッパに蔓延しました。死亡者は全世界で8,000万人、ヨーロッパで3,000万人に達したとされています。船から疫病が持ち込まれることに気づいたベネチアでは40日間の海上検疫(quarantena)が始められました。このペストも中国が発生源で、シルクロード経由でイタリアまで拡がったとされています。グローバル化した現在では、飛行機等の交通機関の発達により感染も瞬く間に世界中に拡がっていきます。感染対策を的確に素早く行わないと国家の存亡にかかわることになります。ウイルスとの戦いに国境はなく、感染症克服に対する人類の叡智が試されています。